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【人事・労務・労働問題】退職勧奨のポイント (退職の意思表示が無効とされた事例 東京地判平成23年3月30日労判1028号5頁・富士ゼロックス事件)

 従業員が違法行為をした場合でも、懲戒解雇による無用なトラブルを避けるために、退職勧奨をして円満に退職してもらうケースが多いです。

 ただ、本件では、本来であれば懲戒解雇できないのに、懲戒解雇する可能性をちらつかせながら、従業員に対して、自主的な退職を迫ったため、従業員からの退職の申入れが無効とされ、従業員は退職していない、という判決になっています。(東京地判平成23年3月30日労判1028号5頁・富士ゼロックス事件)


【事案の概要】
 被告Y社の従業員Xが、平成21年5月15日付の退職の意思表示は錯誤(民法95条)があったから無効である等を理由に、Y社に対して、雇用契約上の地位確認と、退職の意思表示以降の賃金・賞与等を請求した事案です。

 平成20年12月、Xが出勤時刻を虚偽入力したことが発覚し、会社はXから数度の事情聴取を行ない、調査を行なったところ、他にも多数の出勤・退勤時刻の虚偽入力や、交通費等の二重請求の事実が判明しました。

 平成21年3月11日の事情聴取において、Y社人事担当者は、Xに対して、「職を辞して懲戒解雇を避けたいのか、手続を進めるのか。そこをやるだけだ。」「あなたのためを思って人事は言っている。会社に残りたい、これは寝言。」「自主退職を申し出るのか、会社から放逐されるのか、決めて欲しい。」「懲戒解雇は退職金は支払わない。会社は必ず処置をする。」などと迫りました。Xは、事情聴取終了後、企業内労働組合に相談したところ、「会社がそう言っているなら、組合としては何もできない」と回答されたこともあり、翌日、自主退職する旨を回答しました。

 その後、平成21年5月、Y社はXに対して出勤停止の懲戒処分を言い渡しました。これに対して、Xが、Y担当者に対して、出勤停止処分となったということは継続勤務できるということかをたずねると、Y担当者は「懲戒解雇に当たるところを、退職をもって責任をとりたいという、その表明されたということで勘案して出勤停止になった」と回答し、Xは、退職願を提出して、退職の意思表示をしています。
 
【争点】
 主として、錯誤の有無が争点となりました。

【判決】
 裁判所は、Xが、Y社担当者から前記のとおり言われたことにより、自主退職しなければ懲戒解雇されるものと信じ、懲戒解雇による不利益を避けるために、そのことを黙示に表示して、本件退職意思表示をしたと認定しました。
また、Y社が有効に懲戒解雇をなしえなかった場合、Xが自主退職しなければ懲戒解雇されると信じたことは要素の錯誤に該当するとしたうえで、本件虚偽入力や二重請求の態様等を考慮すると、これらを理由とする懲戒解雇は社会通念上相当とはいえず、Y社はXを有効に懲戒解雇をなしえなかったので、Xの本件退職意思表示は要素の錯誤により無効であると判示し、Y社に対して、Xによる退職の意思表示以後の賃金と、賞与のうちの金額確定部分の支払いを命じました。

【コメント】
 会社側が従業員に対して退職を交渉するときに、「自主的に退職しないなら、懲戒解雇できるんだぞ、それでもいいのか」という形で、自主的な退職を迫ってしまいがちかと思いますが、そのような交渉方法に注意喚起を促す判決といえそうです。

 本判決を踏まえて、会社側の教訓としては、懲戒解雇に相当する行為をしたトラブル社員に退職を促す場合に、そのトラブル社員が退職を申し出てきたとしても直ちには飛びつかずに、「処分内容が不確定であり、懲戒解雇以外の懲戒処分が下される可能性がある」ということを従業員にきちんと説明したうえで、改めて自主退職の意思表示をさせる、というプロセスを経るといいでしょう。

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プロフィール

弁護士田辺敏晃

Author:弁護士田辺敏晃
東京の四ッ谷駅近くで執務する弁護士です。
経営者側に立った労働問題の解決に力を入れています。
法律の話題を中心に、書籍紹介、趣味の話などもまぜて書いています。

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