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精神的不調が疑われる従業員に対する、無断欠勤を理由とする諭旨退職処分が無効とされた事例(東京高裁平成23年1月26日判決 労判1025号5頁 日本ヒューレット・パッカード事件)


【事案の概要】
 Y社(被告・被控訴人)の従業員であるX(原告・控訴人)が、Y社によるXの諭旨退職処分(本件処分)が無効であるとして、雇用契約上の地位の確認と、本件処分後の賃金・賞与の支払い等を請求した事案です。

 Xは、Y社に対し、平成20年4月8日、職場の嫌がらせを受けている等の被害事実(過去3年間の自分の日常生活が盗撮・盗聴・つけまわしなどによって仔細に監視され、その情報がY社の従業員に共有され、Y社の従業員がその情報をほのめかすことによってXに嫌がらせをしている等)を申告し、調査を依頼して、有給休暇を取得して出社しなくなりました。Xは、有給休暇を全て消化(6月3日まで)した後も引き続き、7月30日まで欠勤しました(本件欠勤)。

 Xは、数度にわたり、特例の休職を認めるように依頼しましたが、Y社の担当部長は、申告された被害事実は存在せず、休職の特例は認められないとの回答をしました。また、Xは休職の申請方法を質問しましたが、Y社の担当部長は、休職申請の質問には明確に回答をしませんでした。

 その後、Xは7月31日に出社し始めましたが、Y社は無断欠勤を理由に諭旨退職処分(本件処分)をしました。

 Y社の就業規則には、51条に、「欠勤多くして不真面目なとき、および正当な理由なしに無断欠勤引き続き14日以上に及ぶとき。」には懲戒処分にすると規定し、53条に、懲戒の種類として諭旨退職とその内容が規定され、63条に、「傷病その他やむを得ない理由で欠勤するときは、あらかじめ就業報告書により、その理由および見込日数を届け出なければならない。ただし、やむを得ない理由により事前の届け出ができない場合は、速やかに適宜の方法で欠勤の旨を所属長に連絡するとともに、その後遅滞なく所定の手続をとらなければなららない。なお、欠勤が1週間以上にわたる場合は、傷病のときは医師の診断書を、その他の理由による時は相当の証明書を必要とする。」と規定されていました。

【争点】
 本件欠勤の懲戒事由該当性と、本件処分の相当性です。

【裁判所の判断】
 1審の東京地裁は、Y社はXからの調査依頼を受けて適正な調査を行い、平成20年6月3日時点で本件被害事実は認められず、Y社はXに対して調査結果を適切に説明していることからすると、同6月4日以降にXが欠勤する正当なあるいはやむを得ない理由はないから、本件欠勤は就業規則51条3号後段に該当するとし、さらに、本件欠勤は原告による職場放棄ともいうべきもので債務不履行の態様として悪質であるとして、本件処分は社会的に相当な範囲にとどまると判断し、原告の請求を棄却しました。(なお、判決確定日の翌日以降賃金請求の部分は訴えの利益がなく不適法却下。)

 2審の東京高裁は、Xが欠勤を継続したのは、Xの被害妄想など何らかの精神的な不調に基づくものであったということができるから、Xが「傷病その他やむを得ない理由」によって欠勤することが可能であったということでき、本件の事情の下では「やむを得ない理由により事前の届け出ができない場合」に該当するということができ、XがY社部長に対して特例の休職を申請したことからすると「適宜の方法で欠勤の旨を所属長に連絡したものと認められるから、これを無断欠勤として取り扱うのは相当ではないと判示しました。また、Y社の対応としては、Xの精神的な不調が疑われるのであれば休職を促すことが考えられたし、Xの精神的な不調がないとすれば、欠勤による不利益をXに告知していればXが本件欠勤をすることはなかったと認められるとも認定し、本件処分を無効と判示しました。このため、退職日以降の賃金と賞与の支払いを命じています。(判決確定日の翌日以降賃金請求の部分は訴えの利益がなく不適法却下。)
 
【コメント】
 メンタルヘルスに関する問題です。

 本件は、Xからの(特例ではない通常の)休職の申出がないまま、Xが欠勤を始めたため、懲戒処分がなされることになりましたが、仮にXが(通常の)休職の申出をしていれば所定の期間は休職できたと思われますので、その休職の間は、懲戒処分の問題は出てこなかったことになります。東京高裁はこのあたりの事情を考慮して、バランスをとった結論をしたのではないかと思います。

 なお、判決で認められた未払賃金・賞与の金額はざっくり約2年分の1400万円です。会社側にとっては大きな金額です。。
 今回のY社の対応はちょっと問題があったと、判決で認定されています。メンタルヘルスが絡む問題は微妙な判断を要することも多いので、専門家に相談するなどして、より確実な対応をする必要があるといえます。
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弁護士田辺敏晃

Author:弁護士田辺敏晃
東京の四ッ谷駅近くで執務する弁護士です。
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