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【人事・労務・労働問題】採用面接時に、セクハラ疑惑を受けた事実を告知する積極的義務がないとして、普通解雇が無効とされた事例・東京地判平成24年1月27日労判1047号5頁・学校法人尚美学園事件

 普通解雇に関する裁判例のご紹介です。

【事案の概要】
 原告は、元キャリア官僚であり、退職後、民間企業や財団法人に就職し、財団法人を平成18年3月31日に退職して、平成18年4月1日、大学教授として、被告(学校法人)に就職しました。原告は官僚時代にセクハラで注意を受けたことがあり、平成17年ころ以降は、財団法人において、原告によるパワハラ・セクハラについて内部調査が行われ、大手新聞が、財団法人においてセクハラまがいの騒ぎが起きているなどとの報道が行なわれていました。

 原告は、平成18年1月の被告との採用面接において、転職理由について「役所の仕事がもう限界である」と述べただけでした。また、被告は、原告に対して、事件を起こしたことはないかとか、パワハラ・セクハラ等の問題はないか等の質問はしませんでした。

 被告は、平成21年8月、上記のとおり、以前の勤務先においてパワハラ・セクハラを行ったとして問題にされていたことを告知しなかったことなどを理由に、同9月15日をもって解職(普通解雇)する旨の解雇予告を行ないました。

 これに対して、原告が、被告に対し、本件解雇が無効であるとして,〔1〕労働契約上権利を有する地位の確認及び〔2〕賃金・賞与の支払い、〔3〕不法行為に基づく損害賠償の支払いなどを求めました。

【争点】
 被告の就業規則上の解雇事由である「職務に必要な適格性を欠くと認められた場合」に該当する事由が存在するか、より具体的にいえば、「原告は、被告との採用面接時、被告に対し、財団法人における自己の言動がセクハラ・パワハラであると告発されている問題の存在及び内容などを積極的に告知すべき信義則上の義務があるか」です。

【裁判所の判断】
 裁判所は次のように述べて、原告の信義則上の義務を否定し、被告主張の解雇事由はなく、本件解雇は無効であるとして、原告の請求のうち、地位確認、賃金・賞与の支払いを認容しました。

 「採用を望む応募者が,採用面接に当たり,自己に不利益な事項は,質問を受けた場合でも,積極的に虚偽の事実を答えることにならない範囲で回答し,秘匿しておけないかと考えるのもまた当然であり,採用する側は,その可能性を踏まえて慎重な審査をすべきであるといわざるを得ない。大学専任教員は,公人であって,豊かな人間性や品行方正さも求められ,社会の厳しい批判に耐え得る高度の適格性が求められるとの被告の主張は首肯できるところではあるが,採用の時点で,応募者がこのような人格識見を有するかどうかを審査するのは,採用する側である。それが大学教授の採用であっても,本件のように,告知すれば採用されないことなどが予測される事項について,告知を求められたり,質問されたりしなくとも,雇用契約締結過程における信義則上の義務として,自発的に告知する法的義務があるとまでみることはできない。」

【コメント】
 本件は、採用面接時に原告が積極的に虚偽の事実を述べたわけではありません。本件判決は、会社による採用面接を含む審査は慎重を期すべきであり、応募者(労働者)側が、採用に関して自己に不利益な事項を自発的に告知する義務までは認められないとしています。

 会社は、採用時に、応募者の適性等を判断するために必要な事項を調査することが認められていますが、その半面、調査不備があったときのリスクは、会社が負担すべきである、という価値判断が可能です。本判決も、このような価値判断を前提にしているように思います。

 本判決をみて、あらためて言えることは、会社は、採用面接時には、(応募者その他との関係に支障が生じない限りという限定があるとは思いますが)聞きづらい質問を含め、できるだけ多くの質問をして情報を集めることが必要になります。

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【人事・労務・労働問題】付加金に気をつけましょう!


 会社が、従業員に、残業代を支払わなければいけないのにサービス残業させて残業代を支払わなかったり、解雇したのに解雇予告手当を支払わなかったりした場合、会社にどういうリスクが生じるかご存知ですか?

 従業員が裁判に訴えた場合、裁判所は、会社に対して、残業代や解雇予告手当の支払いとは別に、ペナルティとして、「付加金」(労働基準法114条)の支払いを命じることがあります。

 たとえば、会社が残業代100万円を支払っていない場合、裁判所は100万の支払いに加えて、付加金の名目でさらに100万円支払え(トータル200万円の支払い)という判決を下すことがあります。付加金の支払いを命じるかどうか、命じるとして金額をいくらにするかは、裁判所が自由に決めることができます。

 会社としては、従業員から残業代請求の訴訟を提起された場合、仮に敗訴して残業代を支払うことになるのはある意味やむを得ないとしても、付加金は支払わなくても済むようにしなければいけません。

 この対応例を1つ紹介します。会社は、1審の裁判所から、残業代の支払いと付加金の支払いの両方を命じられたら、すぐに残業代を支払うとともに、控訴して、付加金の支払いを命じた判決部分の取消しを求めると、2審の裁判所が、付加金の支払いをしなくていいですよ、という判決をする可能性が高いです(裁判例の結論はまだ固まっていませんので、リスクはありますが、おそらく、2審ではこのような判決がされると思われます。)。

 従業員から残業代請求をされて、苦しんでいる会社は増えておりますが、くれぐれも付加金の支払い義務は負うことがないように対応する必要があります。

【人事・労務・労働問題】精神的不調が疑われる従業員に対する、無断欠勤を理由とする諭旨退職の懲戒処分が無効とされた事例・最判平成24年4月27日

 以前このブログで紹介した、東京高裁平成23年1月26日判決・日本ヒューレット・パッカード事件の上告審(最高裁)判決です。
 事実関係の詳細は、以下をご覧ください。
 http://tanabenn.blog135.fc2.com/blog-entry-34.html

 最高裁も、東京高裁の判断と同様に、諭旨退職の懲戒処分が無効であると結論づけました。

 その理由として、

  ・会社は、精神的不調のために欠勤を続けていると思われる従業員に対して、健康診断を実施し、結果に応じて治療を勧め、私傷病休職制度の利用を検討するなどの対応・配慮をするべきである

  ・そのような対応・配慮をすることなく、直ちに諭旨退職の懲戒処分をとることは、精神的な不調を抱える従業員に対する会社の対応として適切なものとはいい難い

という点を挙げています。

 会社は、就業規則において、健康診断の随時実施や私傷病休職制度を規定していることが多いので、そうであればなおさら、メンタル不調の従業員に対して、会社側が自発的にそれらの措置の実施を検討して、相当程度の配慮をしてあげる必要があることになります。

【人事・労務・労働問題】基本給に時間外割増賃金が含まれているとはいえないとされた事例・最判平成23年3月8日

 基本給を月額(41万円)で定めた上で月間総労働時間が一定の時間(180時間)を超える場合に時間当たり一定額を別途支払うなどの約定のある雇用契約の下において、各月の上記一定の時間以内の労働時間中の時間外労働についても、使用者が基本給とは別に割増賃金の支払義務を負うとされた事例を紹介します。

【事案】
 被告Y社に雇用されて派遣労働者として就労していた(すでに退職しています)Xが、Y社に対して、未払いの時間外労働の賃金があるとして、その支払い等を請求しました。

 XY間の雇用契約では、基本給を月額41万円としたうえで、1か月間の労働時間の合計(以下「月間総労働時間」という。)が180時間を超えた場合にはその超えた時間につき1時間当たり2560円を支払うが,月間総労働時間が140時間に満たない場合にはその満たない時間につき1時間当たり2920円を控除する旨の約定がされていました。

 Xは、月間総労働時間が180時間を超えない範囲で時間外労働をした月がありましたが、その時間外労働分も含めて、賃金請求をしました。

【争点】
 1つ目の争点は、Xの基本給は、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する時間外手当を含んでいたといえるかであり、2つ目の争点は、Xが、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する時間外手当を自由意思により放棄したといえるかです。

【最高裁の判断】
 本件の基本給の約定は、基本給の一部を他の部分と区別して時間外割増賃金とした事情もなく、1か月の時間外労働時間は月によって勤務すべき日数が異なること等により相当大きく変動し得るものであるから、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないとして、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する時間外手当を含んでいたとはいえないとしました。

 また、Xの毎月の時間外労働時間数が相当大きく変動し得るものであり、Xがその時間数を予測することが容易ではないため、Xが時間外手当の請求権を放棄したとはいえないとしました。

 さらに、最高裁は、本件の賃金の約定について、「通常の月給制の定めと異なる特段の事情がない限り、…通常の月給制による賃金を定めたものと解するのが相当」と判示しています。

【コメント】
 会社側が、「基本給に時間外手当が含まれている」と主張するためには、対象となる時間外労働時間数と手当の金額を明示していくことが必要になります。今回の最高裁判決も、いままでの裁判例に沿った判断といえます。

 今回のような賃金の定めは、IT系のソフトウェア開発などの業種ではよく見られるものです。元請との請負契約(実態は派遣契約だったりします)の報酬が作業時間数に応じているケースがあり、従業員の給料もそれに沿って定めているわけです。

 今回のような賃金の定めをしている会社は、賃金の定め方を再考する必要がありますね。

【人事・労務・労働問題】退職勧奨のポイント (退職の意思表示が無効とされた事例 東京地判平成23年3月30日労判1028号5頁・富士ゼロックス事件)

 従業員が違法行為をした場合でも、懲戒解雇による無用なトラブルを避けるために、退職勧奨をして円満に退職してもらうケースが多いです。

 ただ、本件では、本来であれば懲戒解雇できないのに、懲戒解雇する可能性をちらつかせながら、従業員に対して、自主的な退職を迫ったため、従業員からの退職の申入れが無効とされ、従業員は退職していない、という判決になっています。(東京地判平成23年3月30日労判1028号5頁・富士ゼロックス事件)


【事案の概要】
 被告Y社の従業員Xが、平成21年5月15日付の退職の意思表示は錯誤(民法95条)があったから無効である等を理由に、Y社に対して、雇用契約上の地位確認と、退職の意思表示以降の賃金・賞与等を請求した事案です。

 平成20年12月、Xが出勤時刻を虚偽入力したことが発覚し、会社はXから数度の事情聴取を行ない、調査を行なったところ、他にも多数の出勤・退勤時刻の虚偽入力や、交通費等の二重請求の事実が判明しました。

 平成21年3月11日の事情聴取において、Y社人事担当者は、Xに対して、「職を辞して懲戒解雇を避けたいのか、手続を進めるのか。そこをやるだけだ。」「あなたのためを思って人事は言っている。会社に残りたい、これは寝言。」「自主退職を申し出るのか、会社から放逐されるのか、決めて欲しい。」「懲戒解雇は退職金は支払わない。会社は必ず処置をする。」などと迫りました。Xは、事情聴取終了後、企業内労働組合に相談したところ、「会社がそう言っているなら、組合としては何もできない」と回答されたこともあり、翌日、自主退職する旨を回答しました。

 その後、平成21年5月、Y社はXに対して出勤停止の懲戒処分を言い渡しました。これに対して、Xが、Y担当者に対して、出勤停止処分となったということは継続勤務できるということかをたずねると、Y担当者は「懲戒解雇に当たるところを、退職をもって責任をとりたいという、その表明されたということで勘案して出勤停止になった」と回答し、Xは、退職願を提出して、退職の意思表示をしています。
 
【争点】
 主として、錯誤の有無が争点となりました。

【判決】
 裁判所は、Xが、Y社担当者から前記のとおり言われたことにより、自主退職しなければ懲戒解雇されるものと信じ、懲戒解雇による不利益を避けるために、そのことを黙示に表示して、本件退職意思表示をしたと認定しました。
また、Y社が有効に懲戒解雇をなしえなかった場合、Xが自主退職しなければ懲戒解雇されると信じたことは要素の錯誤に該当するとしたうえで、本件虚偽入力や二重請求の態様等を考慮すると、これらを理由とする懲戒解雇は社会通念上相当とはいえず、Y社はXを有効に懲戒解雇をなしえなかったので、Xの本件退職意思表示は要素の錯誤により無効であると判示し、Y社に対して、Xによる退職の意思表示以後の賃金と、賞与のうちの金額確定部分の支払いを命じました。

【コメント】
 会社側が従業員に対して退職を交渉するときに、「自主的に退職しないなら、懲戒解雇できるんだぞ、それでもいいのか」という形で、自主的な退職を迫ってしまいがちかと思いますが、そのような交渉方法に注意喚起を促す判決といえそうです。

 本判決を踏まえて、会社側の教訓としては、懲戒解雇に相当する行為をしたトラブル社員に退職を促す場合に、そのトラブル社員が退職を申し出てきたとしても直ちには飛びつかずに、「処分内容が不確定であり、懲戒解雇以外の懲戒処分が下される可能性がある」ということを従業員にきちんと説明したうえで、改めて自主退職の意思表示をさせる、というプロセスを経るといいでしょう。

プロフィール

弁護士田辺敏晃

Author:弁護士田辺敏晃
東京の四ッ谷駅近くで執務する弁護士です。
経営者側に立った労働問題の解決に力を入れています。
法律の話題を中心に、書籍紹介、趣味の話などもまぜて書いています。

【Facebook】
http://www.facebook.com/toshiaki.tanabe.5

【事務所】
東京都千代田区麹町6丁目4番地麹町ハイツ902
川合晋太郎法律事務所
電話03-3511-5801

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